はじめに:世界の食卓を支える小麦
小麦は、世界で最も広く栽培されている穀物の一つであり、パン、麺類、菓子など、私たちの食生活に欠かせない様々な食品の原料として利用されています。世界人口の増加に伴い、食糧需要は増大しており、小麦の安定供給は世界の食糧安全保障を確保する上で極めて重要な課題となっています。
米国は、世界有数の小麦生産国であり、その広大な土地と高度な農業技術によって、高品質な小麦を大量に生産しています。世界中の国々が、パンや麺類などの食文化を育んできましたが、その多くは、米国産小麦の安定供給によって支えられています。
近年、干ばつや異常気象などの影響により、世界の小麦生産は不安定な状況が続いていました。 しかし、2024年の米国産小麦は、豊作となりました。これは、過去数年間の厳しい状況を乗り越え、生産者たちのたゆまぬ努力と技術革新、そして持続可能な農業への取り組みが実を結んだ結果と言えます。
本稿では、米国産小麦の収穫状況と品質について、米国小麦協会の最新の報告書「U.S.Wheat Associates.「2024 U.S.Crop Quality Report」」に基づきながら解説するとともに、その背景にある持続可能な農業への取り組みについても紹介します。
豊作に沸く2024年の米国産小麦
2024/25年度の米国産小麦の生産量は、約5,370万トンと推定されています。これは過去8年間で最大規模の収穫量となり、世界の小麦市場に明るい兆しをもたらしています。特に、ハードレッドウィンター(HRW)とハードレッドスプリング(HRS)の生産量増加が顕著であり、これらの品種は、それぞれパンや麺類の製造に適していることから、世界中の製粉業者や食品メーカーから高い需要があります。
この豊作の背景には、いくつかの要因が考えられます。
- 恵まれた天候
2024年の生育期は、全般的に良好な天候に恵まれました。特に、主要な小麦生産地であるグレートプレーンズでは、生育期中盤に適度な降雨があり、これが収量と試験重量の向上に大きく貢献しました。干ばつに見舞われた地域もありましたが、全体的には、小麦の生育に適した気候条件であったと言えます。 - 作付面積の増加
2024~25年度は、前年と比較して、小麦の作付面積が増加しました。作付面積の増加は、総生産量の増加に直接的につながるため、豊作の大きな要因の一つと言えるでしょう。 - 技術革新の進展
米国では、小麦の生産性向上のための技術革新が続いています。精密農業、品種改良、病害虫対策など、様々な技術が導入され、収量増加に貢献しています。精密農業は、GPSやセンサーなどを活用し、圃場内の状態を細かく把握することで、肥料や農薬を必要な場所に必要な量だけ散布することを可能にします。これにより、コスト削減と環境負荷の低減を両立しながら、収量を向上させることができます。また、品種改良は、収量性、品質、耐病性などを向上させるために、常に続けられています。

引用:U.S.Wheat Associates.「2024 U.S.Crop Quality Report」
米国産小麦の品質
2024年の米国産小麦は豊作であると同時に品質も良好です。品質指標は、小麦の用途や加工特性を評価するために用いられます。主な品質指標としては、タンパク質含有量、灰分値などがあります。
- タンパク質含有量
タンパク質含有量は、小麦粉の用途を決定する上で重要な指標です。タンパク質含有量が高いほど、グルテンの量が多いため、パンなどの製品に適しています。一方、タンパク質含有量が低い小麦は、ケーキやビスケットなどに適しています。2024年のHRWの平均タンパク質含有量は、11.9%と高い傾向にあります。
- その他の品質指標
灰分は、小麦に含まれるミネラル類を示す指標です。数値が高いほど、風味や色が濃い小麦粉であるとされています。 2024年の米国産小麦の灰分は、全体的に低い値を示されています。

引用:U.S.Wheat Associates.「2024 U.S.Crop Quality Report」
持続可能な農業:未来への投資
米国では、環境負荷を低減しながら高品質な小麦を生産するため、持続可能な農業への取り組みが積極的に進められています。 持続可能な農業とは、環境、経済、社会のバランスを保ちながら、長期的に農業生産を維持していくための取り組みです。
- 輪作で土壌の健康度を守る
輪作は、同じ土地に異なる種類の作物を順番に栽培することです。小麦の連作を避けることで、土壌中の養分の偏りを防ぎ、病害虫の発生を抑えることができます。またマメ科植物などを輪作することで、土壌中の窒素を増加させる効果もあります(窒素固定)。輪作の推進は土壌の健康を維持し、持続的な農業生産を実現するための重要な技術です。 - 土壌改良で、豊かな土壌を追求
土壌は植物の生育基盤であり、農業生産の基盤でもあります。土壌の健康状態は、作物の生育に大きく影響するため、土壌改良は、持続可能な農業にとって重要な取り組みです。土壌改良には、有機物の施用、土壌微生物の活性化、土壌物理性の改善など、様々な方法があります。有機物の施用は、土壌の保水性、通気性、保肥力を高める効果があります。土壌微生物の活性化は、土壌中の有機物を分解し、植物が利用しやすい形に変えることで、作物の生育を促進します。土壌物理性の改善は、土壌の硬さや透水性を調整することで、作物の根の生育を促進します。 - 化学肥料の低減で、低環境負荷を実現
化学肥料は、作物の生育に必要な養分を供給するために広く利用されていますが、過剰な使用は、土壌や水質の汚染、温室効果ガスの排出など、環境に悪影響を与える可能性があります。持続可能な農業では、化学肥料の使用量を減らし、環境への負荷を軽減することが求められます。家畜の排泄物を利用した有機肥料の活用や、窒素固定能を持つマメ科植物の利用など、化学肥料に頼らない方法が模索されています。 - 精密農業で効率的な農業を実現
精密農業は、GPSやセンサーなどの技術を活用し、圃場内の状態を細かく把握することで、肥料や農薬を必要な場所に必要な量だけ散布する等、きめ細かく制御を行い、農作物の収量及び品質の向上を図り、その結果に基づき次年度の計画を立てる一連の農業管理手法です。農作物の収量及び品質の向上を図り、その結果に基づき次年度の計画を立てる一連の農業管理手法です。これにより、コスト削減と環境負荷の低減を両立しながら、収量を向上させることができます。
まとめ
2024年の米国産小麦は、豊作と高品質で、世界の食卓を支えています。 これは米国生産者たちの努力、技術革新、そして持続可能な農業への取り組みの成果です。
米国では、今後も持続可能な農業を推進し、高品質な小麦を安定的に供給していくことが期待されます。 世界的な食糧需要の増大、気候変動の影響など、農業を取り巻く厳しいですが、米国産小麦は、世界の食糧安全保障に貢献していく上で、重要な役割を担っていくでしょう。